第四十話「経営改善プロジェクトチームのキックオフ」
道元の目の前には、10名のスタッフが集まっていた。その中には、フロントマネージャーの財前、カフェのアシスタントマネージャーの志村、営業スタッフでありオーナー家の御曹司である佐郷も含まれていた。その他のメンバーというと役職者と言うよりも、各部門のリーダークラスが集められているようであった。しかも、このプロジェクトチームに対する気持ちや考え方もばらばらのスタッフが集まっているようにも見えた。
財前はそのメンバーの顔を見て、安堵の表情を浮かべた。このメンバーで経営改善なんて出来ないと感じたからだ。日頃から前向きに頑張っている奴らが2割ぐらい、後の8割ぐらいは俺と一緒で、日頃の仕事がきっちり出来ていれば満足しているスタッフだったからだ。これなら俺も手を抜ける、日頃の仕事が忙しいことを理由にしてプロジェクトチームの活動をおざなりにしても良いだろうと思えた。財前は一人ほくそ笑んだ。
「まず、このプロジェクトチームのリーダー役を決めたい。」
道元は、このプロジェクトチームを作った目的と活動内容を話した後、少し間を置いて話し始めた。
「どなたか立候補者は居ませんか。」
10名のスタッフは誰もがうつむき加減で、道元の顔を見ようとはしなかった。道元はそのスタッフの顔を一人一人見ながら、様子をうかがった。
「ここに居る10人にはそれぞれに役割分担を持ってもらいます。ですので、必ず何かしらの役割を持つことになります。では、リーダーは置いておいて、各チームメンバーを決めましょう。一チームに3名ずつです。」
そう言って、道元はホワイトボードに3つの○を書き始めた。
「一つ目の○は、サービス向上チーム。二つめの○は、経費削減チーム。三つ目の○は売上向上チームです。さあ、皆さんどのチームに入りたいですか。」
各スタッフは、リーダーになりたくないとの思いが先行して、我先にと挙手し始めた。そうしてあっという間に、各チームメンバーが決まった。
財前はあっけに取られている内に、挙手するタイミングを逃していた。
「財前さんが残っているようだが、リーダーを引き受けてもらえるかな。」
柔和な表情で道元は、財前に話しかけた。普通であれば、最後に残った者がリーダーをやるなんて組織はうまくいくはずが無い、と誰もが考える。だが道元はそう考えていなかった。恐らく、財前が最後に残るだろうと予想していたかのようだった。そして、他のメンバーはいっせいに財前を見つめた。それは、ある意味懇願しているような目でもあった。他のメンバーも財前がリーダーだとやりやすいと思っていたからだった。なぜなら、このようなプロジェクトチームの活動に時間を割くほど自分の業務に余裕があるわけでは無かったからだ。それなりに進めば良い。財前ならその機微は分かってくれるだろうと、他のメンバーは考えたのだった。
「分かりました。やってみます。」
財前は小さい声で答えた。
つづく