コンシェルジュノート

2014/03/11 再建屋 道元

第五十話「メインバンクの戦い」

メインバンクの企業支援部長である権堂が珍しくホテルにやってきた。このホテルのターンアラウンドマネージャーとして道元を招いた張本人である。

 「道元社長。このホテルの資本だが、現在は民間ファンドが保有していることはご存じだと思います。私はどうしてもあのファンドがこのホテルの存続を願って出資したとは思えないんだよ。何かにつけて、道元社長のやり方では収益改善のスピードが遅いと言って、我々を抱き込もうとしているんだよ。我々からすると何をそんなに焦っているのか分からないし、彼らが言っていることは理に叶ってないんですよね。」

 道元は、このホテルに来てから従業員の笑顔が以前より増えたことを頭に描きながら、ホテルのGOP率と金額を思い起こしていた。道元がきた時点ではGOP率が18%しかなく、大幅な営業損失を発生させていたものが、直近の実績ではその比率は30%近くまで上がってきていた。これは、ひとえに各プロジェクトチームの活動が浸透してきており、その効果が出てきたことを表していた。収益改善の実績とそれを実現する組織作りにおいて、どこから見ても順調に進んでいるようにしか見えなかった。

 しかし、道元は何も応えなかった。ただ、権堂部長をじっと見据えたままであった。そして、権堂部長の言葉が途切れて沈黙すると、道元はロビーの外に広がる庭を見つめた。

 

 恐らく、ファンド会社は早く私を追い出したいのだろう。そうして資本と債権をもとに完全な主導権を握った後に、直近の改善した収益を元に売却先を探すはずだろう。そして、そのつなぎの社長として佐郷さんを取り込もうとしているんだろう。果たして、それでホテルスタッフが幸せになるならばいい。私はここにずっといるわけではないのだから・・・。しかし、佐郷さんもスタッフもファンド主体のストーリーで幸せになる保証はない、むしろ言いようにされてしまう可能性の方が高いのではないか。

 

 「我々メインバンクとしては、このホテルを永続的にこの地に存在させ続けなければならない。そのためには、どうしてもあのファンドには出てもらわないといけないと考えている。」

 周りを見回して、誰もいないことを確認して権堂部長はまた話を始めた。

 「地元IT企業のネットエージェンシーという会社がこのホテルに出資しても良いと言っているんです。ファンドが納得できるぐらいのリターンを乗せた金額で資本を買い取りたいと考えています。ネットエージェンシーは弊行が100%のメインバンクですし、収益はきわめて安定しています。」

 「権堂部長に全てお任せします。私もその方が良いと思います。」

 道元は言葉少なく応えた。

つづく