第六十六話『もも銀行への反旗』
朝倉社長と月野常務は、もも銀行会津支店を訪れていた。ここ会津に長い冬の季節の到来を告げるように紅葉した大銀杏の真っ赤な葉がひとひらこぼれ落ちていた。もも銀行会津支店のそばにあるこの大銀杏は樹齢500年とも言われ、地元でもシンボル的な存在であった。
「また、冬が来るな。毎年この大銀杏から紅葉した葉が落ちるのを見るたびに、歴史あるうちの旅館もこの冬を越せるのか、そんなことを考えてしまうな。」
そばに居た月野常務は、毎年聞く社長の大銀杏の話に半分呆れながらも、感慨深く頷いて見せた。
狭くて素っ気ないしつらえしかない会議室で朝倉社長と月野常務は岡島部長と立川課長に向き合っていた。少しくたびれたソファーに深く腰掛けて、神妙な面持ちであった。
「ええ、そういうわけでして。岡島部長には道元さんをご紹介頂いた手前、きちんとご報告しないといけないと思いまして、参った次第なんです。」
ソファーから身を乗り出した。
「本当はね、こんなこと部長にお話をしたくはないんですよ。岡島部長にご紹介頂いた旅館建て直しのプロが部長に対して日々パワハラをしていて、社内の雰囲気が非常に悪くなっているなんて。私は、歴史ある旅館の当主としてこんな話が外に出ること自体、非常に恥ずかしいことでもあります。いや、でも本当に参りました。あの元気だけが取り柄の森重部長が、なんと鬱になるなんて、思ってもみませんでしたから。」
立川課長は社長がまだしゃべり足りなそうな雰囲気であることを感じながらも社長の次の言葉を遮った。
「道元さんのパワハラは、本当にあったのですか。いや、あったとしても、道元さんにはそういう言動を取った原因があると思うのですが。一体それは何でしょうか。」
「立川課長。それが分かれば、我々も手の打ちようがあったんです。森重に対して何か伝えたいことがあったに違いないって。」
月野常務は岡島部長と立川課長を代わる代わる見渡して、一呼吸置いた。
「それが、全く分からんのですよ。道元副社長に聞いても、森重に聞いても、そのとき居た人間に聞いても。誰もよく分からないの一点張りで。道元副社長に至っては、このことに対しては何の弁明もないので、その動機やら根拠は分からないんです。」
「恐らく、日頃の道元さんの森重に対する態度を見ていても、気に入らないんだろうなぁというのは感じていました。なんと言うんでしょうか。他の人と違って、関わり方がよそよそしい感じでした。」
無言でいるのが耐えきれなくなったのか、朝倉社長が突然割って入ってきた。
岡島部長は、そのやりとりをただ黙って聞いていた。