第二十二話「再生請負人の受け入れ」
「息子さんは戻っていらっしゃらないのですか。」
平山統括責任者は手元の資料をめくりながら、坂本社長に尋ねた。
「今勤めている国内資本の大手シティホテルの仕事が面白いらしくて。特に現職の営業課長の仕事にやりがいを持っていると言っていました。それに、現在の状況で息子に引き継ぐのは、やはり気が引けます。息子はまだ34歳でして、しかも今まで経営には全く携わっておりません。いきなりホテル経営は難しいと思います。」
「少なくとも社長は経営から退いて頂かなければなりません。それはご理解頂いていますね。」
「はい、もちろんそのつもりです。」
「では、社長の後継者はどうされますか。息子さん以外に経営者に該当するような方はいらっしゃいますか。」
「おりません。」
坂本は、たとえ自社の経営が厳しい状況であっても、もっと早めに入社させてホテル経営に携わらせるべきであったかと悔いた。しかし、一方他社で貴重な経験を積み重ねることが、中長期的には当社にとっても有効に働くはずであるとも信じていた。そして、息子の将来は息子が決めることを伊織とも話し合っていた。息子が戻ってこないと決めたならば、会社を身売りしても良いと考えていたのであった。
「社長。それでは、一定期間ターンアラウンドマネージャーを受け入れることを検討しませんか。ターンアラウンドマネージャーとは、日本語で言うところの再生請負人でして、一定期間経営者として再生企業に入り込んで再生を会社の内側から実現していく役割を持ったプロフェッショナルです。例えば、息子さんを会社に戻してターンアラウンドマネージャーの下で経営の勉強をさせることも考えられます。」
「そんなことが出来るんですか。世の中にそのようなプロフェッショナルがいるとは知りませんでした。そのような方がうちの会社を建て直してくれるんだったら、これほどありがたいことはない。」
「社長、勘違いしては困るのですが、ターンアラウンドマネージャーに任せておけば大丈夫というわけではないんですよ。あくまで、会社を建て直すのは、従業員全員ですから。ターンアラウンドマネージャーはいずれいなくなります。いる間に会社の体質を強化して、再生できる仕組みを作り上げることがターンアラウンドマネージャーの主な役割なんです。」
「なるほど。」
坂本は隣にいる伊織と顔を合わせた。伊織はまだ十分には理解し切れていない様子であった。
つづく