Webリニューアルにおける手順と留意点
《コンシェルジュコラム》旅館・ホテルのWeb戦略(2)
前回は、旅館・ホテルのWeb戦略を考える上での前提として、ここ最近、インターネットで起こっている大きな変化について確認してみました。ポイントとして挙げたのは、以下の3点です。
(1) スマホの普及で、消費行動パターンが変化する
(2) SEO(検索エンジン最適化)対策の変質が、コンテンツの重要性を加速させる
(3) インターネットをめぐる技術の進化が、旅館・ホテルに変革を迫る
こうした変化に対応するため、多くの施設様で、現状の自社サイトのリニューアルが課題となっているように拝見します。
今回は、Webのリニューアルを検討したいものの、何から手を付ければよいかで悩んでいる方に、検討する上でのポイントや進め方について、お伝えしたいと思います。
(1) スケジュール ~ いつから取りかかる? 期間は?
Webリニューアルの検討は、少なくともサイトオープンの目標時期から6ヵ月くらい前から開始したいところです。
まず、「どのようなサイトにすべきか」というコンセプト作りに1~2ヵ月。
次いで、サイト制作などの協力会社の選定に1ヵ月。
実際の制作期間 2ヵ月、最後にできばえの確認と、テスト運用期間として1ヵ月という内訳です。
かなり余裕を持ったスケジュールと感じられるかもしれませんが、実際にはこの間に繁忙期なども重なり、想定通りに進められないケースが多いことを考慮に入れています。
その代わり、プランニングの段階で決めたオープン時期は、ずらさないことが重要です。
タイミングとしては、繁忙期の後、次の繁忙期まで数ヶ月の余裕が見込める時期が理想的です。
繁忙期前にオープン時期を設定してしまうと、サイトのコンテンツが十分に揃っていなかったり、担当者が運用に不慣れな状態のまま、繁忙期を迎えることになります。
せっかくのサイトリニューアルの効果を最大限に業績に活かすために、「いつ」をオープン時期とするかについては慎重に定めたいですし、そのためにも無理のないスケジュールの策定がポイントとなります。
また、依頼した当初は想定していなかったヌケモレ、想定外の使い方をされた場合の不具合への対応は、必ず発生します。社内のWeb担当者にも、操作に慣れてもらわなければなりません。
実質的な制作期間の後、1ヵ月程度を、確認とテスト運用期間として忘れないように見込んでおきましょう。
(2) コンテンツ ~ 何から考える? どう考える?
Webサイトリニューアルを検討される際、もっとも避けていただきたいパターンというのがあります。
それは、「今のWebサイトをベースに」「制作会社にすべて任せて」検討を進めるということです。
前回のコラムでご紹介したとおり、ここ1~2年でインターネットをとりまく状況やお客様の消費行動は、大きく変化しています。
したがって、旅館・ホテルのWebサイトに求められるものも変わっています。
「今のWebサイトをベースに」「制作会社にすべて任せて」では、その変化への対応は実現できません。
「今のWebサイトをベースに」がよくないのは分かるけれども、「制作会社にすべて任せて」は問題ないのでは? とお考えの方も多いでしょう。
確かに、実際のWebサイトの制作は、制作会社に一任しなければなりません。
ですがその前に、旅館・ホテルのみなさまに、ご自身で考えていただきたいことがあるのです。
それが、「どのようなサイトにすべきか」という「コンセプト作り」です。
「コンセプト」というと抽象的ですが、要は、当社のWebサイトを通じて
- どのようなお客様が
- どのような情報を、どのようなステップで入手し、
- どのような満足を得たいと望んでいるか
について考えてみる、ということです。
このプロセスでは、経営者様やWeb担当者様が、机の上だけで考えるのではなく、お客様に接する場面の多いフロントや接客係の方からの意見、または実際のお客様の声を元に考えていくことがポイントです。
可能であれば、インターネットを使ってご予約されたお客様から、直にご意見をお聞きするのも、たいへん参考になるでしょう。
- そもそも今回の宿泊の目的は何か。
- どのようなサイトから、どのようなキーワードを使って当館を見つけたか。
- 他に比較した施設はあるか。そこと比べて当館の印象はどうだったか。
- 何が印象に残ったか。何が決め手となって当館を選択したか。
- わかりにくかった点はあるか。
などなど。
意外に、自分たちで考えていた自社のイメージ、想定していた動きと異なる部分があるはずです。
こうしたナマの意見を踏まえた自社の魅力を元に、Webサイトで何を伝えるべきかを「サイトコンセプト」として整理していきます。
そして、この「サイトコンセプト」で何より気をつけていただきたいのは、「こだわりの料理」「接客のよさ」「貸切露天風呂」といった、抽象的な表現にとどめないということです。
- 料理は、誰が、何に、どのようにこだわっているのか。
- 接客は、どんなスタッフが、どんな対応をしてくれるのか。
- 貸切露天風呂の「売り」は、泉質? 眺望? 広さ? その詳細は?
ひとつひとつの要素について、可能な限り詳細に、考えてみてください。
この作業は、前回のコラムで触れた「ユーザー目線で有用な情報は何か」という視点につながる、重要なプロセスになります。1~2ヵ月、という、少々長めの期間を想定しているのも、そのためです。
(3) 制作会社選定 ~ どうやって選べばいい?
新Webサイトのコンセプトがしっかりと定まった段階で、制作会社の選定に入ります。
コンセプト作りを自社で行う、というプロセスを踏むことで、新Webサイトで大事にしたいこと、こうあってほしいこと、というのが明確になっているはずです。
その上で制作会社との話を進めれば、その制作会社が、きちんと当社の意を汲んで進めてくれる会社か、そうでないかの判断がつきやすくなることでしょう。
まずコンセプト作りから進めるのには、そうしたメリットもあるのです。
複数の制作会社に見積を依頼する場合は、「提案依頼書」(RFP: Request For Proposal
ともいいます)の形で、こちら側の要望を整理して伝えるようにします。
この提案依頼書には、下記のような内容を盛り込みます。
- サイトのコンセプト
(誰に、何を、どのように伝えるサイトとするか) - サイト構成
(どのような項目を盛り込むか) - 主なページに求める要件
(プラン紹介ページの表示方法、検索機能、予約システムなど) - 運用上の要件
(どの項目を、どのくらいの頻度で、誰が更新する想定か) - スマホへの対応方法 (後述)
- デザイン面での要望
- 要望する成果物
(Webサイト設計書、コンテンツリスト、操作マニュアル など) - 想定するスケジュール
より具体的で専門的な内容として、下記のような項目も指定できれば理想的です。
- 目指したい成果 (成約率、閲覧ページ数、滞在時間、直帰率などの数値目標)
- SEOで対策したいキーワード
- SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)への対応方法
- CMS(コンテンツ・マネジメント・システム)の指定
こうした技術的な要素も含む要件を、自社だけで決めるのは難しい、と感じられる方も多いかもしれません。
その場合は、制作会社に業務を委託する前に、こうした内容について先方に相談する時間を、十分に確保するようにするとよいでしょう。
提案依頼書の作成や、基本的な設計部分のみ、別の専門家の支援を仰ぐという選択肢もあります。
また、少し横道にそれますが、スマホへの対応方法については、PCページと同時編集・同時更新ができること、また同一URLでPCと各携帯端末に適したページを表示できることは、必ず条件に盛り込んでおきます。
前回のコラムも触れたとおり、スマホでのアクセスはこれからますます増加していきます。施設の特性によっては、スマホサイトの方が重要性が高い、という可能性もあるでしょう。
Webデザインの分野でも、「スマホファースト」と言って、PCサイトよりもスマホサイトのデザインをまず検討し、PC向けのサイトデザインは後から考える、という考え方が強まっています。これからWebリニューアルと検討するのであれば、ぜひ「スマホファースト」を実践してください。
◇ 次回予告 ——————————————————————-
次回は第3回(最終回)「Webサイトの運用~作って終わりの時代は終わり」をお届けします。
お楽しみに!