第七話「いつもと同じ毎日を」
「道元社長の仰ることはよく分かります。我々だって、臨機応変に対応したいですよ。ですが、こうしょっちゅう食数の増減があると、どれが本当の数字か分からずに全て疑心暗鬼になってしまって・・・。ロスが出るのも嫌なので最小限の仕込みにしているんです。」
フロントスタッフからの申し出があり、しばらくしてから和食の調理状況について板長と話をしていた。道元には、あのフロントスタッフのやりきれない後ろ姿が、そして夕食の追加を断られて無表情で客室へ戻るお客様の寂しい後ろ姿が、目に焼き付いて離れなかった。しかも、折伏総支配人は、あれ以来何事もなかったように通常の業務に黙々と取り組み、フロントスタッフからの申し出のこともすっかり忘れているようだった。
板長に話を聞くと、どうやら予約情報の伝達に問題があるようだった。もちろん、調理場のお客様への意識が低下していることが最大の要因ではあったが、それを引き起こしている一つの要因として予約情報の伝達があるようだった。
「それは営業とフロントがしっかりしていないからですよ。」
予約課のスタッフによれば、営業スタッフが請け書を適当に書いたり、お客様やエージェントと詰めの作業をしておらず曖昧な予約情報をそのまま予約課に投げるために、予約課の業務が膨大になっているとのことであった。そのため、最終確認などをする時間も取れず、チェックインになって予約数が変動することがあるようであった。また、予約情報を前日に再度確認しないフロントの怠慢であることも合わせて訴えていた。
「道元社長。昔は6名いた営業スタッフが、現在は4名しかいないんですよ。売上は確かに減っていますが、やっている業務自体はそれほど減っていないんです。だから、予約の詳細まで予約課に伝えることが出来ないこともあるんです。予約課の人間には、その当たりも踏まえてフォローしてくれと言っているんですが・・・。」
一事が万事、どの部署に聞いてもこのような話しになり、それぞれがこの問題の一つの要因であるにもかかわらず、誰も責任を感じておらず、誰かのせいにして済ませているようであった。また、人が少ないことを最大の言い訳にして、何も業務を変えようとしない雰囲気を醸成していた。
しかし、道元は見抜いていた。
スタッフ一人ひとりは、今の業務量は以前と比べて余裕があり、改善の余地があることを分かっているが、誰か一人がそのことを言い出したら自分の業務負担が増えてしまう。それが嫌だと考えていることを。誰も今のままが良いと感じていることを。当たり障りのない仕事をただ黙々とこなして給料がもらえれば、それで良いと思っていることを。あの総支配人でさえ、そうであることを。
つづく