コンシェルジュノート

2011/08/02 再建屋 道元

第九話「自分たちの想い」

 長い静寂を破る長瀬営業支配人の言葉が、冷たい会議室に響いた。

 社長の道元を非難する言葉を投げつけた長瀬営業支配人を、道元は笑顔で見つめていた。

 「私は、皆さんの本当の言葉を知りたかった。長瀬支配人の言葉は、本当なのでしょう。まず、それが嬉しい。長瀬支配人、ありがとう。」

 余りに直接的に自分の意見を伝えてしまうと自身の立場を失うかもしれない、しかし、今言っておかないと、このままこのホテルはだめになってしまう。どうして良いか分からない。道元の叱責の後、そんな悶々とした気持ちで胸が張り裂けそうになっていた。ふっと、自身の営業活動について真剣なまなざしで聞いてくれた道元の顔を思い出した。その瞬間に、先ほどの発言に繋がったのだった。発言した後、やはり自分は言ってはいけないことを言ってしまったのだと、後悔していた。

 それなのに、道元は私に感謝している。正直長瀬営業支配人は訳が分からなかった。

 「皆さんは、それぞれに自分の想いを持って仕事をしてきたはずです。そして、自身の想いが強ければ強いほど、周りと摩擦が起きるでしょう。そんな摩擦を嫌がって自分の想いを忘れてしまうのか、そんな摩擦を受け入れて自分の想いを大切にするのか、それは、皆さん次第なんです。周りはあなた方に何も強制していない。周りがあなた方の想いを無視しようとしていると感じるのは、自分自身がそう思っているからなのです。」

 「しかし、道元さん。私は、何度も池田社長に営業方針について説明に上がり、同意を得ようと働きかけました。それでも、いっこうに池田社長の考えは変わらなかった。売上低下の要因は、池田社長にもあるんです。」

 「その時、長瀬支配人は他の部門長とも相談しましたか。」

 「いえ、皆さん、同じようなことを仰っていたので。そんな話しを聞いているうちに、池田社長には何を言っても無駄なんだと思い始めて・・・。」

 「ここにいる皆さんの想いは、ある程度一致しているのではないでしょうか。それは、目の前にいらっしゃるお客様を大切にしたい。そういうことではないのでしょうか。」

 今まで、ほとんど無反応だった部門長たちの姿勢は柔らかくなっており、まなざしは道元をまっすぐに見つめていた。

 「その皆さんの想いに、もっと自信を持って下さい。そして、皆さん同士もっと信頼して下さい。」

 

 つづく