第二十七話「道元の謝罪」
昨晩チェックインした中国からの団体様がお発ちになる頃、ロビーは賑やかな中国語が飛び交っていた。日本人の添乗員を数人の中国人が取り囲んでいた。何やら、今日の観光ルートを変更して欲しい、どうにかしろと言った内容のようであった。添乗員は、困った顔つきで大型バスのドライバーにルート変更をお願いしていた。やがて、観光客の願いが受け入れられたようで、彼らは納得したような仕草をして乗務員の肩をたたき、てんでばらばらに大型バスに乗り込んでいった。
いつものように、ぴりぴりとした緊張感の中、朝礼が始まった。そして、ひとしきりいつもの朝礼が終わろうとしたときに、女将が道元を見た。
「今日は、道元社長からお話しを頂きます。道元社長、よろしくお願いいたします。」
女将は、少し不安そうな顔をしていた。事前に何の相談も無く、あらためて従業員にどのような話をするのか、その意図もさっぱり分からなかったからであった。
「ええ、皆さん。本日は皆様にお詫びをしなければなりません。」
女将と従業員は、一同に目を見開いて道元を見つめた。
「私が、着任して2ヶ月ほど経ちました。しかし、この間、女将に負担をかけすぎていたことに最近気付きました。私は社長なのに、女将にこの旅館のすべてのことを任せすぎていました。」
一言一言、ゆっくりとかみしめるように話した。そうして、女将の方を向いた。
「女将、申し訳なかった。これからは、女将には接遇と仲居の管理に徹して頂きたい。」
道元の目は、鋭く、重みがあり、若干の慈しみがあった。
「はい。よろしくお願いいたします。」
女将は、反射的に答えた。
「女将はこれまで以上にお客様との接遇に精を出して頂いて、館内におけるお客様サービスの向上に努めて頂く事にします。それ以外のことについては、私に相談して下さい。よろしいですね。」
「はい、かしこまりました。」
従業員が一斉に答えた。
その瞬間、朝礼の雰囲気が軽くなった。
つづく