第28話「新たな取り組み」
あの朝礼から数日が経った。
女将を初め、従業員に戸惑いもあったが、少しずつ自身の役割や組織としてのあり方が変わってきたことに慣れてきているようにも見えた。それと同時に、皆が感じていたストレスや妙なプレッシャーから解放されつつあるようにも見えた。
道元は、あの朝礼の後、更に二つの新たな取り組みについて説明をしていた。
一つは、組織図の変更だった。それまで、すべての部署が女将に下にぶら下がっていたものを、営業部や調理部などは道元直轄とし、客室部は女将が管理するものの、女将の上には道元がいるような組織に変えた。女将が仲居を管理するとともに、接遇に関する業務については女将が責任を負うことを従業員に明確に示したのである。
実は、それまで明確な組織図もあってないようなものであった。何となく女将がすべてを見て、何となく自分の上司はこの人だろう、何となく昔からやっているから自分の役割分担はこんなものだろう、そんな阿吽の呼吸でやってきたのが実態だった。そうすると、責任と権限が曖昧になってしまい、悪いことがあると責任逃れが横行したり、全く関係の無い従業員が絶大な権力を持っていたりするなどしていた。また、同じような業務を何人もの従業員が行うなど、非常に非効率的なオペレーションにもなっていた。
もう一つは、会議体の設置であった。それまで、女将の気がついたときにそれぞれの課題に合わせて会議を開いていた。そもそも、会議にはどのような種類があって、どのように進めて良いかも分からないと言うのが正直なところだったので、女将からの一方的な伝達の場になりがちであった。そこで、経営会議と営業会議、運営会議の3つの会議を新たに設置した。経営会議と営業会議は、議事進行は営業部長が行うものの、道元が仕切って開催することとした。しかし、これらの会議にも必ず女将にも出席させていた。女将は、あくまで道元の補佐役という位置づけであった。一方、日々の業務に関することやクレームを含めた顧客対応について議論し、対策を決める会議である運営会議は、女将が仕切ることとした。
このような新たな取り組みが始まってから、女将と従業員を取り巻いていた「何かが違う」という感覚が、少しずつ薄れていくようであった。
つづく