第二十九話「画期的なサービス」
いつものとは違うチェックインの光景だった。
あるお客様は、今まで通りフロントカウンターでチェックインをしていたが、あるお客様はロビーのテーブル席で、あるお客様はロビーに隣接したラウンジでチェックインをしていた。
先日の運営会議において、チェックイン時に時間がかかってしまい、お客様を待たせることが多い、と言う報告がフロントから上がってきたことが発端であった。それを聞いた仲居の早樹が、すかさず発言した。
「フロントスタッフの人数も十分ではないので、チェックインのお客様が集中してしまうと、どうしてもお待たせしてしまうと言うことだと思います。私たち仲居は、チェックインを待ってからご案内することが多くて、その時間がもったいないと思っていました。だったら、私たち仲居もチェックインをお手伝いすれば良いのではないでしょうか。あまり難しいことは出来ませんが、御芳名帳にご連絡先を頂いて、お食事の時間や場所、館内のご案内ぐらいであれば、トレーニングさえすれば出来ると思います。チェックインを担当したスタッフが、フロント、仲居にかかわらずお部屋までご案内すれば、お客様にも喜んで頂けるのでは無いでしょうか。」
フロントスタッフは考えるまもなく、答えた。
「そうして頂けると本当に助かるし、お客様もお待たせすることも無い。そして、チェックインからお部屋まで一人で対応するので、お客様にも安心感を与えられます。本当に良いアイデアだと思います。」
「でも、私たち仲居も食事や客室の準備で忙しい時間だし、そこまで出来るのかしら。ちょっと、不安ね。」
仲居頭が口を挟んだ。
「しかも、早樹さん、いい?チェックインの業務ってそんなに簡単じゃ無いわ。少しトレーニングしたぐらいで、本当に出来るのかしら。」
仲居頭は、表情の無い目をして早樹に語りかけた。
つづく