第三十話「飛び交うアイデア」
仲居がチェックインを行うという新たなサービスに対する仲居頭の否定的な発言から、しばらく沈黙が続いた。
「やっぱり難しいかな。」
フロントスタッフが小さくつぶやいた。
「でも、お客様のためになることだったら、どうにかして工夫できないかしら。」
これまでのいきさつを見守っていた女将が、スタッフを見回しながら話した。
「工夫か・・・。もし、簡単にチェックインの仕方が分かるようなペーパーをフロントで作ってくれたら、私たちもそれを見ながら練習できるんじゃないかしら」
早樹が少し難しい顔をしながら、誰に話しかけるでもなく独り言のように話した。
「それなら、出来るわ。私が作ります。そして、フロントスタッフが教えてあげれば良いよね。」
「そうね。チェックイン前の空いた時間に、早めに食事の準備をしておけば良いし、食事の準備とチェックインに担当者を分けても良いし・・・。」
「そうよね。逆に私たちフロントスタッフだって、料理出しぐらいであればお手伝いできるし。」
「それ、いいわ。」
フロントスタッフと仲居が次々にアイデアを出し合っていた。
「それでは、誰がいつまでに何をやるか決めて、まとめましょう。」
道元から事前にアドバイスされたとおり、担当者と期限を決めるよう女将がスタッフに促した。
この会議の様子を、自ら発言することなく仲居頭は苦々しく見ているしかなかった。
つづく