コンシェルジュノート

2013/04/16 再建屋 道元

第四十一話「志村のいらだち」

 サービス向上チームはカフェのアシスタントマネージャーの志村、売上向上チームはオーナー家御曹司の佐郷、経費削減チームは宴会サービスの是町がそれぞれチームリーダーを担当した。そして、各チームにはチームリーダー以外に2名ずつ所属しており、プロジェクトリーダーのフロントマネージャーの財前が取り仕切るという体制であった。

 すでにキックオフから10日が経っていた。道元からメンバーに指示があったのは次のようなものであった。

 「チームごとに、まずはやらないといけない事といつまでに何をするのか決めて、1週間以内に報告してほしい。」

 

「財前さん。プロジェクトチームのミーティングしないんですか。道元社長から指示された期限の1週間をとっくに過ぎていますよ。」

志村はたまりかねた様な顔をして、財前に詰め寄った。志村はキックオフの後すぐにメンバーを集めて、チームで取り組むべき課題とスケジュールをまとめ上げていた。

志村とメンバーは、旧態依然とした昔ながらのサービスにスタッフが満足しきっている点がこのホテルの問題であると見ていた。今提供しているサービスが、本当にお客様が喜んでいただくものになっているのか、お客様の笑顔につながっているのか、まずは現状をチェックすることが大切ではないかと話し合った。そこで、スタッフ同士がサービスについて評価し合うセルフチェックシートを全スタッフに無記名で記入してもらうことを思いついた。やはり、自分以外のスタッフのサービスを名指しで評価することは、どうしても憚れる。そこで、無記名としたのだった。

一方、お客様からのアンケートを集めることも同時に行うことにした。このホテルでは、今までアンケートを取ったことが無かった。事前に各セクションのリーダーにアンケートの趣旨を理解してもらい、またアンケートにお答えいただいたお客様にはささやかなプレゼントを提供することにした。そのプレゼントも、一枚一枚手作りのカフェチケットとした。カフェでお好きなドリンクを一杯無料でサービスするというものだ。このチケットの裏側に、メンバーが手書きでアンケートにお答え頂いた感謝の気持ちを書くことにした。

 

「分かっているよ。そろそろミーティングを開こうと思っていたんだ。」

財前は、面倒くさそうな顔をして投げやりに答えた。志村は財前をにらみ続けていた。

「そんなにミーティングしたいんだったら、志村お前が招集してくれよ。俺はリーダーだ。ミーティング開催の権限は志村にやるからさ。」

財前は、そう吐き捨てて喫煙ルールへと逃げ込んだ。

なんてめんどくさいことを引き受けちゃったんだ。やっぱり俺は無理だって、道元社長に言ったほうがいいな。そう呟きながら、胸からマルボロを取り出した。

つづく