コンシェルジュノート

2013/11/20 再建屋 道元

第四十八話「表情の見えるお客様」

 カフェのアシスタントマネージャー志村はあのときを思い出していた。

 

サービス向上チームによるアンケートの収集が終わっていた。それは惨憺たる結果だった。お客様からの評価も「とても良い」という評価は0%であり、「良い」も45%しか無かった。総じて、このホテルにいても何から何まで拍子抜けをする感覚があり、ここでゆっくりと過ごそうとか美味しいものを食べて元気になろうとか、そんな思いがなくなってしまう自分がいることに逆に苛立ってしまうと言う意見すらあった。

一方のスタッフからのアンケートを見ると、ほとんどが周りに対しての文句ばかりであった。あいつは自分の業務のことも理解しないで勝手なことばかりしている。お客様のためなんて格好の良いことを口で言っているが、本音は自分が楽をしたいだけだ。などなど挙げればきりが無いほどの文句が並べられた。

志村はそれを見て愕然としていた。自分が想像しているよりももっと、このホテルは病んでいることが分かったからだった。チームメンバーと日々話し合った。私たちはどうすれば良いのか。どうすればスタッフ同士が信頼して、本当にお客様のために働いて、そしてお客様に心底ありがとうを言って頂けるようになれるのか。どうすれば当たり前のホテルになれるのか。

 

最近、ホテルの中で笑い声が絶えないようになっていた。それはお客様だけでは無く、バックヤードにいるスタッフ同士もそうであった。それまでの淀んで沈んでしまった空気が一掃されたようであった。その空気が入れ替わるにつれて、お客様からの評価も上がっていった。常時収集するようになったアンケート結果の数値がどんどん上がっていったのだった。それを見ながら志村は一人頷いていた。

あんなひどいアンケート結果を見てから、まだ3ヶ月程度しか経っていなかった。しかし、この3ヶ月でこのホテルは生まれ変わったようだった。

何でだろう?

志村は、この3ヶ月間を振り返ったが、自分が何をしてきたのか、プロジェクトチームのメンバーが何をしてきたのか、明確に言えるものが無かった。ただ、プロジェクトメンバーが最初とは打って変わって、やる気になったことが変わったことと言えば変わったことだった。しかし、何か特別あった訳ではないし・・・。

「志村さん。305号室がインロックしてしまったようなの。行ってくれますか。」

上司からの声かけにハッとした。志村は急いでマスターキーを持って客室へと向かった。

 

 

 つづく