コンシェルジュノート

2015/08/11 再建屋 道元

第六十七話『裏切り』

 朝倉社長と月野常務は、道元を追い出そうとパワハラの事実を岡島部長と立川課長に懇々と説いていた。朝倉社長は申し訳なさそうな表情を浮かべながら、月野部長は義憤の面持ちを醸し出しながら。

 もも銀行会津支店のそばにある大銀杏から、また一片黄葉が落ちた。

「朝倉社長、月野常務。我々としてはこれ以上あなた方に経営を任せることができない。」

 岡島部長はおもむろに話し始めた。

「我々が貴社を支援してから、もう数年が経っています。しかしながら、いつまで経っても経営改善の兆しが見えない。売上は減少が続き、一方人件費などの固定費の削減は進んでいない。結果的に営業キャッシュフローは減少の一途を辿っている。」

 大銀杏が風に揺られて黄葉が散った。

「我々としても、何とか会津のお宿花やしきを残したいと考えています。そのために、弊行として身を切る覚悟です。その身代わりとして、あなた方には経営を退いてもらいたい。」

「何を言っているんですか。岡島部長は、おかしなことを言う人だ。私が花やしきの社長を退くなんて父や榊原先生は許さないと思いますよ。この花やしきは朝倉家のものなんだ。誰の手にも渡さない。渡せるわけがないんだ。」

 いきり立ち、朝倉からはいつもの柔らかな佇まいが一切なくなっていた。仕立ての良いトラディショナルなスーツが乱れていた。そうして、おもむろに携帯を手に取った。

「花やしきの朝倉だ。榊原先生を出してくれ。」

 秘書らしき人間が榊原に取り次いでいるようであった。

「もしもし。」

「あー先生。朝倉です。今、もも銀行に来ているんですが、岡島部長が私に社長を辞めろといっているんですが、どうしたものでしょうかね。」

 朝倉は落ち着きを取り戻しながら、引きつった笑みを浮かべていた。

「えっ、先生。それはどういうことですか。それは仕方ないことだって。先生まで何を言っているんですか。先生を衆議院議員まで大きく育てたのは、朝倉家ですよ。その恩を忘れたんですか。先生。」

 電話は切れたようであった。窓の外に舞い降りる黄葉の落ちる音がした。

「どうしてなんだ。」

 朝倉は力なくソファーにへたり込んだ。