コンシェルジュノート

2016/01/12 再建屋 道元

第71話 『一人きりの館内見学』

 千島支配人に指定されたとおり、翌日10:00にA店に赴いた道元は、ホテルシス
テムからはじき出された帳票類に目を通していた。昨年の稼働実績に基づき的確
なフォーキャストが設定されており、イールドマネジメントも導入されているよ
うであった。毎日のオンハンド状況も更新された生の情報に近い管理帳票が日々
作成されて社長と幹部に共有されていた。独立資本のローカルチェーン店として
は、非常に進んでいる仕組みであった。良くあるのは、データを集めるだけ集め
て、それを社長が一人ほくそ笑みながらあるいは苦虫をかみつぶしたような顔を
して見るだけで何も活用しないというパターンである。これは社長の単なる自己
満足のために管理帳票を作成しているだけで、何も管理されていないのである。
しかし、当社は違っていた。これらの管理帳票を日々アップデートしながら、そ
れをすぐにレートコントロールや客室在庫の調整に役立てており、非常にきめ細
かい管理がされていた。

「非常に良く管理されているし、迅速な対応をしているようですね。」

 道元は、感心しながら千島支配人に話しかけた。千島支配人はせわしなくキー
ボードを打っていた手を止めて、道元の方を振り向いた。

「そうですか。我々は、この会社に入社してからずっとこのシステムで動いてい
るものですから、素晴らしいのかどうか分からないんですよね。ただ、そうやっ
て人に褒められると悪い気はしないですね。」

 少しはにかむような表情をしたと思えば、すぐにその緩んだ表情を隠してパソ
コンに向き合った。もう少し話を聞いてみたかった道元は、手持ちぶさたの風で
フロントバックの周囲を見渡した。

「ちょっと館内を見させてもらって良いかな。」

「ご案内しますか。」

 パソコンに向き合ったまま、独り言のように呟いた。

「いや、一人で見て回るから良いですよ。マスターとルームインジケーションシ
ートを頂けますか。」

 素早く立ち上がった千島支配人はフロントバックの金庫を気ぜわしく開けて、
マスターキーを取りだし、柔らかな手つきで道元に渡した。

「恐れ入りますが、よろしくお願いいたします。」

 そう言い渡すと、すぐに自分のデスクへと戻っていった。

 

 ホテルの屋上に立った道元は、目の前にある貯湯槽やチラーなどを見ていた。
設備管理もキチンとされているようで、痛みはほとんど無いようであった。屋上
の手すりに手をかけて周りを見ると夜に輝く看板があちらこちらに林立していた。