コンシェルジュノート

2016/04/12 再建屋 道元

第73話 『招かれざる客』

(株)セントラルホテルチェーンの旗艦店であるA店は、地方中核都市の繁華街近
くに立地しているため、夜には様々なお客様が訪れる。

当ホテルチェーン店は比較的安価であるものの18m2と若干広い客室とシモンズ製
ベッド、全館WiFi完備、空気清浄機完備、ベッド周りにコンセントや電気系統の
スイッチが集中しておりお客様視点の設備備品類などが売りである。当然ビジネ
スマンが中心顧客となる。出張で地方に来て、夜は繁華街のお店で一杯引っかけ
て、歩いてすぐのホテルに泊まるシーンを想定している。

客室稼働率は年間を通して80%を超えており、ここ数年高い数値を維持している。
しかしながら、アイドルグループのコンサートが近くのアリーナで実施されるな
ど特別な期間を除くと、ADR(販売客室1室あたりの室単価)を5,000円程度と、設
備投資にお金をかけているにしては、低い数値となっていた。これが当社の収益
性を低くしている主な要因であった。

道元は、どうして実力以下のADRしか取れないのか、考えあぐねていた。設備は
周辺のホテルから見ても競争力はある。しかし、よくよく見るとフロントマネー
ジャーの河南以外のサービスはあっさりしすぎていて暖かみが感じられなかった。
果たして、そのせいなのか。

フロントにいかにも何かにおびえているような顔をした怪しげなお客様がチェッ
クインをしていた。フロントスタッフは何事も無いように普通にチェックインの
対応を行っていた。

その次の日の午後、道元は清掃スタッフの一人と立ち話をしていた。

「道元副社長。昨日お泊まり頂いた308号室のお部屋ですが、こんなものがおい
てありました。」

それは、注射器であった。

「これは、何ですか。」

「覚醒剤の注射器ですよ。このホテルがよく使われるんですよね。そのあたりで
覚醒剤を仕入れて、我慢できずにホテルの客室で打ってるんですよ。まあ、我々
からしたらそれほど珍しいことでは無いんですけどね。」

「珍しくないって。これは犯罪ですよ。警察には届けていますか。」

「昔は届けていましたが、今となっては余り警察も相手にしてくれません。何せ
レジストレーションカードは嘘の情報ですし、一度使ったお客様は二度とここを
使いません。一度使うには都合の良いホテルだという噂が、その筋の方々の中で
は有名みたいなんですよ。我々もいちいちお客様の所持品を調べるわけにもいき
ませんし。当然注射器に指紋などもありません。警察も見て見ぬ振りですよ。」

道元は次の言葉が見つからなかった。