コンシェルジュノート

2017/01/10 再建屋 道元

第82話 『V字回復の兆し』

「道元さんから見たとき、うちの4つのホテルはもっと儲からんかね。」

試すような目をして伊藤社長は道元にたたみかけた。

「年商が約1,200百万円でEBITDAが10%しかありませんから、120百万円。CAPEX
は一旦おいておいて、ざっくりと12%で割り引くと1,000百万円となります。こ
れが鑑定評価の粗々の根拠です。それにプレミアムを10%つけるので、決して格
安の価格ではないでしょう。しかし、足下を見るとEBITDAも増加傾向にあります。
今後も更に上がる可能性が高い。そうしたときに、この将来性を見込んでもう少
し高く買ってくれる会社があったとしても不思議ではないと思います。」

伊藤は神経質な鋭い目をしたまま、軽く頷いていた。

「やはり、そうだよな。」

独り言とも言えず、ふっと言葉が漏れた。

「ところで、私にはよく分からんのだが、最近の業績は上向いているのはどうし
てなのかね。支配人がやっていることは、これまでと変わらないようなんだが。
あえて言えば、リピート率や顧客満足度の指標がわずかに上がっているのはなん
となく分かるんだが。しかし、どうしてそれがEBITDAの増加につながっているの
か。」

「支配人のモチベーションも高いですし、スタッフも前よりもさらに前向きに頑
張っているからじゃないでしょうか。」

伊藤社長は数字にうるさく、しかも細かく見ているためポイントをずらして分析
と部下に指示をすることはなかった。むしろ、数字によって人を管理することを
信条としていた。それは、曖昧なもので人を評価すると公平性が保てないとの、
これまでの経営における経験から導き出されたマネジメントの要諦であった。そ
のため、業績に結びつきにくい指標であるリピート率や顧客満足度をどう評価し
て良いのか、それらがいかにして売上や利益に結びつくのかについてはあまり興
味が無かった。

よく分からないようなふりをしていた道元であったが、業績がV字回復する兆し
が出てきたことを当然のことと感じていた。数字だけの管理体制に顧客に対する
視点を大切にしていくことにより売上獲得の機会が増えて、結果として売上増加
につながる良い流れに変わったことを道元も身をもって感じていたからである。
さらに、その流れを各自が感じており、支配人はじめスタッフがホテルで働くこ
との楽しさをあらためて感じ始めていたのであった。