第84話『メインバンクの想い』
もともと道元を伊東社長に紹介したのは、メインバンクチェリー銀行企業支援室の島崎部長であった。最初に紹介されてからずいぶん時間が経ったような気がしていた。
「島崎部長、大変ご無沙汰しております。」
省エネということで館内は非常に暗く、応接室の灯りだけが眩く感じられた。
「いやー、さすがですな。道元さんにかかるとどのホテルも見違えるようになる。私は根っからの銀行屋だから、どうしても数字のみで会社を評価してしまう。そういう視点からも今の(株)セントラルホテルチェーンは文句なしの業績だ。リスケする際に弊行が中心に作成した経営改善計画も超過達成している。どのようなマジックを使ったのか、知りたいと思いましてね、お呼び立てした次第です。」
屈託のない、しかし慎重な笑みを浮かべていた。
「特別何かしたというわけではないんです。ただ、自然とスタッフの動きやすい環境を作ってあげた。そうすると、後はスタッフが自らいろいろと考え行動してくれた。ただ、それだけなんですよ。本当に私は運がいい男です。」
道元は、ややはにかんだ表情をあえてした。
島崎部長の側に控えていた館課長がおもむろに話し出した。
「道元さん。弊行としては(株)セントラルホテルチェーンの抜本再生を図るべきではないかと考えています。なぜなら、伊東社長はやはり不動産の社長です。どうしてもホテルを不動産としてしか見られていない。確かに、計数管理などはしっかりしていますし、スタッフに対しても厳しく接して端から見るとまとまりもある。しかし、道元さんに再建をゆだねて分かったのは、やはり、ホテルはホテル経営のプロに任せるべきでないか、と。」
「ここ最近、監督官庁からも事業性評価と顧客視点に立った融資姿勢と支援姿勢を求められておりましてね。我々としても出来ることはしなければならないという風に決断した訳なんです。」
島崎部長が間に入って口を挟んだ。
「そこでです。我々としては、M&Aによる株式譲渡を図ってはどうかと考えています。つまり、経営者を変えると言うことです。伊東社長も売却先を探していることは我々も周知しております。その上で、事業再生のスピードを上げていこうと考えています。もし、必要であれば何らかの金融支援も検討の余地があります。」
事業再生畑を歩いてきたと自負している館課長はその豊富な経験を活かして、顧客先の支援を先頭切って推し進めているリーダーと聞いていた。その銀行員らしからぬ物怖じしない言い切る物言いと良い、血気盛んな姿勢も垣間見える、ちょっと風変わりな銀行員であるように道元には見えた。