コンシェルジュノート

2010/12/17 それでもホテルは生き続ける

第二話「資金ショートの呪縛」

 経理部長である板東が社長室の扉を叩いた。

 「失礼します。」

 板東は実直な男ではあるが、どこかしら批判的な目で私を見るため、どうにも本心から好きにはなれないでいた。

先代の社長からの要請で取引銀行から出向してきて、その後我が社に転籍していた。そのため、私よりもこのホテルの内部のことは良く分かっており、財務面では頼りにせざるを得ないことも若干腹立たしかった。

 「先月の損益速報と予想資金繰りです。売上は客室販売の単価が減少を続けており、稼働率は何とか前年同月と同様の65%を維持したのですが、売上は落ち込んでいます。

宴会については歓送迎会の受注が少なくなっており、法人宴会も良くない状況が続いています。

レストランはランチバイキングが功を奏していまして、売上の前年対比では104%となっています。

経費面では、各部門ともに配膳会やパート社員の実働を減らして人件費の削減に努めてはいたのですが、売上の低下をカバーするだけの費用削減とはなりませんでした。

こちらの予想資金繰り表をご覧頂きたいのですが、このままの状態が続くとすれば、凡そ6ヶ月後には資金がショートします。」

 「6ヶ月後?」

 「はい、そうです。6ヶ月後です。」

 「どうすれば良いんだ」

 「金融機関にお願いして、更なる借入を起こした方が良いとは思いますが...。ただ、現在の借入が既に13億を超えておりますので、追加の融資が可能かどうかは分かりません。」

 「分かりませんじゃないだろう。どうするんだ。」

 「やはり、度重なる設備投資を行っていた際にお願いした借入の返済負担が大きくて、とてもキャッシュが回らない状況が続いています。

運転資金の借り換え借り換えで何とか急場をしのいでいるのが現状ですし、懇意に取引してもらっている業者には支払を手形に変えてもらったりしています。これ以上の協力は難しいと思います。現在でもあらぬ風評が立ち始めていますから。元はと言えば、投資に見合う売上の増加があれば良かったのですが...。」

 すべて過去の無計画な投資が資金逼迫の要因であることを示唆しつつ、その無計画な投資を行ってきたのは先代の社長と自分であることを暗に批判していることは容易に想像できた。現状については良く掴んでおり、危機感は持っているのだろうが、だからどうすればよいのか具体的な意見が板東から示されたことは無かった。少なくとも坂本には記憶がなかった。

 「とりあえず、銀行には追加の融資が可能かどうか打診はしてみてくれ。」

 「かしこまりました。」

 相変わらず浮かぬ顔をしたまま板東は社長室を出て行った。

つづく