コンシェルジュノート

2010/12/17 それでもホテルは生き続ける

第七話「窓口相談」

 W国際グランドホテルのメインバンクであるあおいろ銀行の柳原融資部長と岩城支店長の薦めにより、社長の坂本と板東経理課長は、W県中小企業再生支援協議会を訪問していた。まずは、窓口相談と言うことで、資料を携えてヒアリングを受けるという話であった。

 まだ30歳にもならない若い担当者が真剣な面持ちで、決算書をめくり始めた。坂本は、こんな若造で大丈夫なのか、自分の会社のことを理解してくれるのか、不安な気持ちで一杯だった。

「これだけ借入金が多いと、返済が大変でしょうね。金利負担も大きいようですし。資金繰りも非常に悪化しているようですね。」

 副統括責任者の牧は、決算書を見ながらつぶやいた。

「そうなんです。毎月の返済が大変で、懇意にしている仕入れ先にお願いして支払いを延ばしながら、何とか工面している状況です。」

板東経理課長は、いつもとはちょっと違ってすがるような表情で口を開いた。坂本は驚いた表情で、板東を見ていた。

「仕入れ先に支払いを延ばしもらっているのですね。そうしている業者さんは多いのですか。」

「いえ、数社程度です。あまり多くなると、うわさ話がすぐに広まってしまいますから。よくない話ほどすぐに広まるんですよね。ですので、慎重にお願いするようにしています。」

坂本は、板東がこのようにして返済資金をやりくりしていることを初めて知ったのだった。どうして自分も知らないことを初めて会った人に話をするのか、いらだちを覚えるとともに、このようなことを幹部とはいえ従業員にさせていることを経営者として恥ずかしくも思った。

「何とかなりますでしょうか。」

資料について、会社の現状についていろいろと話をしていくうちに、坂本には当初感じた不安がある意味期待に変わっていることに気づいた。牧は、若いながらも数字を見て自分と板東の話を聞いているうちに会社の現状をよく理解しており、具体的な指摘をいくつもしてきたからであった。

この人だったら、何とかしてくれるかもしれない・・・。

そんなことを考えていたら、牧が口を開いた。

「何とかなるかどうかは、社長、あなた自身がどうされるかですよ。社長が先頭切ってホテルの再生に取り組もうとするかどうかなんです。」

坂本は、少し驚いた表情で牧を見つめた。

 坂本と板東経理課長は、中小企業再生支援協議会を後にして、梅雨のはずなのに蒸し暑い日が続く大通りを歩いて駅まで向かっていた。

つづく