コンシェルジュノート

2010/12/17 それでもホテルは生き続ける

第十一話「臨時部門長会議」

総支配人の森下は、急遽部門長会議を開催していた。通常は社長も出席するのだが、今回は坂本取締役料飲部長と総支配人、営業部、宿泊部、料飲部、調理部、経理課の部課長が集まっていた。

 「お疲れ様です。早速ですが、部門長会議を始めたいと思います。」

 森下はいつになく硬い表情のまま話し始めた。自社の厳しい状況を社長から聞かされた後だけに、何とかしなければならないという焦りがあった。

 「本日は、売上増加策についてざっくばらんと意見交換をしたいと思いますので、皆さんのご意見を頂きたい。」

 「やはり、リーマンショックを契機として出張需要の落ち込み、観光旅行需要の減退により圧倒的な需要が減少していることが主な要因だと考えられます。

また、近隣にバジェットタイプのホテルが新設されており、価格競争も激しくなっています。このエリアにあるシティホテル、ビジネスホテルはほとんどが稼働率を落としていますし、Rev.PAR(販売可能客室11室あたりの客室売上。客室稼働率×客室1室あたり客室売上。)も減少しています。

つまり、シティホテルの利用者数は減少しており、バジェットタイプに流れている。このトレンドはすぐには変えられないのではないでしょうか。」

 高槻営業部長は一気にまくし立てた。売上低下の要因を外部環境に求める高槻部長の姿勢に、他部門の部課長は、かすかに首をかしげながら隣同士でなにやら囁いていた。

 

「そりゃそうなんだと思うけど、そんなこと言ったって何の解決にもならないじゃない。」

 和食の親方である中川が歯に衣着せぬ物言いで、意見した。

 「俺たちはいらっしゃるお客様に満足して頂くために、おいしい料理を提供しようとしているけど、お客様をお連れするのは営業の仕事じゃないのかね。もっと、営業の方法を変えるとか、魅力的なプランを作らないとだめなんじゃないの。」

 「親方はそう言いますけど、今法人廻りしたって宿泊や宴会そのものが無いんですよ。無いものを欲しがったってどうしようもないんですよ。」

 「高槻部長のおっしゃっていることも分かるのですが、我々のホテルと比較して売上の減少幅が小さいホテルもあると思います。そう言えば、Vホテルは8月度の売上は前年対比でプラスになったとも聞いています。うちのやり方がどこか間違っているんじゃないでしょうか。」

小野上料飲課長は、努めて冷静に話した。

 「何だ、小野上。俺たち営業部が悪いとでも言うのか。売上低下の要因は営業努力が足りないと言いたいのか。むしろ、最近リピート率が落ちていることが売上低下に拍車をかけているんだ。これはとりもなおさず、提供サービスにお客様が満足していないと言うことじゃないのか。」

 森下総支配人は、様々な意見や批判を聞きながら頷く一方で、議論を方向付けることは一切しなかった。率直な意見交換をするためには、お互いに話したいことを話すことが重要だと考えていたためであった。そうこうしているうちに、所定の時間が迫り、各部門長は現場に戻らないといけなくなってしまった。部門長とはいえ、人件費を削減している折、プレイングマネージャーにならざるを得ないためであった。

 「いつも通りで何にも決まらなかったな。」

 小野上料飲課長は一人つぶやいて、担当レストランへと戻っていった。

つづく