コンシェルジュノート

2010/12/17 それでもホテルは生き続ける

第十三話「デューデリジェンス」

第一回のバンクミーティングが終了してから、専門家によるデューデリジェンスが始まった。

社長の坂本はデューデリジェンスという言葉自体初めてだったのだが、分かりやすく言うと財務と事業、不動産等の現状把握のためのそれぞれの専門家による調査のようだった。

調査と言うことは分かったのだが、非常に多くの資料を提出しなければならないし、各専門家からインタビューが行われるし、坂本は時間の多くをこのデューデリジェンスに割かれていた。

また、財務デューデリジェンスについては板東経理課長が実務担当者としてつきっきりになっていた。事業デューデリジェンスについては、各部門長やマネージャクラスもインタビューされており、ある部署においてはリーダークラスまでインタビューされているようであった。

W国際グランドホテルの上層部は、資料作成やらインタビューやらでざわめいていた。

 「いやー、あの先生しつこくて困ったよ。」

高槻営業部長が、持っていた資料をデスクにどすんと置きながら営業課長の小関に話しかけた。椅子に倒れ込むように腰掛けて、更に話し続けた。

「販売チャネル別の営業戦略はどのようなものなのか、年間の営業計画がどうだとか、営業マンのマネジメントや行動管理をどうしてるとか、根掘り葉掘り聞かれちゃってさ。」

明日インタビューが予定されている小関は興味津々に高槻の話を聞いていた。

「それで、何と答えたんですか。」

「営業戦略や営業計画はこの資料を見れば分かりますと答えたんだ。そうしたら先生が、資料を見ながら直接販売のターゲットリストも見せろって言うんだよ。それは、ここに一覧表になっていますからとお見せしたんだよ。すると、このターゲットリストは誰がどのようにして作成したんだって突っ込んできちゃってさ。それは、昨年度と同様のリストを活用していますって言ったんだ。」

「そんなにいろいろと聞かれるんですか。」

「ああ、本当にいろいろと聞かれるぞ。変な答え方しないように予習しておけよ。間違っても、私には戦略も計画もありません。部長の言うとおりに営業しています、なんてこと言うんじゃないぞ。恥ずかしいから。」

「あ、はい。」

「売上が下がって営業は何やっているんだと周りの奴から言われて、これじゃいかんと営業部員一同頑張っているときに、時間がもったいないんだよな。何でまた社長はこんな時にコンサルタントなんかに経営改善の支援をお願いしたんだろうな。」

中小企業再生支援協議会が支援決定したことによるデューデリジェンスであることを、高槻部長は十分には知らされていなかったのである。

 「それじゃ、お先に。」

高槻部長は少し乱れていた白髪に手をやり、軽く整えた後、スーツの上着を手にとって事務所から出て行った。

つづく