第十四話「小関営業課長へのインタビュー」
前日に引き続き、営業部へのインタビューが続いていた。
「小関課長の日々の行動はどのように計画されていて、誰が管理しているのですか。」
事業担当の専門家は、表情は柔らかく恰幅も良く、傍目にはおおらかに見えた。しかしながら、その質問はどれもが細かく鋭いものばかりであった。そのギャップにインタビューされる者は少しの驚きを感じざるを得なかった。
「日々の行動計画というのは、特別ありません。いや・・・、無いのではなくて、その・・・月間の計画はあります。この月間の行動計画に従って、各自が日々の行動計画を立てています。」
「それで、日々の営業活動の報告はどのようにしているのですか。」
「日々はありませんが、毎月行われる営業会議において、まとめて各営業スタッフの活動状況について報告するようになっています。」
顧客別の月別売上動向を見ていた専門家は、おもむろに話題を変えた。
「例えば・・・、この直接販売対象のお客様である一番工業さんの客単価が例年下がってきています。恐らくこのようなことはありませんか。小関課長が例年通り忘年会の営業をかけたとする。しかしながら、W国際グランドホテルは料金が高いから、今回は近くの居酒屋でやることになったと言われませんか。そして、そのときはどうされるのですか。」
「そういったことは他のお客様でも良くあります。その場合は、すぐに私の判断で通常のプランから値下げをします。お客様のご予算を聞いて、上限一杯で受注できるように働きかけます。」
「営業部長への報告は、いつされるのですか。」
「さきほど申し上げましたとおり、月次の営業会議で行います。」
「その際に部長からどのようなコメントがありますか。」
「最近の景況を考えると、やむを得ないだろうというコメントが多いと思います。」
専門家は、ノートに何かを書き込んだあと小関課長を見据えた。一事が万事、行き当たりばったりの営業活動をしていることが明確であり、商品の売りもアピールせずに金額のみに気を取られていると判断していた。
「小関課長。そんなことをしているから、一番工業さんの客単価は年々低下しているんですよ。先方は、予算がどうのこうの仰っているようですが、どうして先方は予算を口にしているのか考えたことはありますか。本当に予算がないのですか。」
専門家は、それまでの落ち着いた口調から一転して強く言い聞かせるように話した。
「いや、それは・・・。今までお伺いしたことはありませんでした。そんなこと、考えたこともありませんでした。先方が予算と言うからには、金額の問題というのが当たり前ですから。」
「それが違う、と申し上げているのです。いいですか。先方が予算というのは、本当の理由を隠すための言い訳なんですよ。確かに、予算の範囲内に収まらないこともあるでしょう。しかし、そうであれば、毎回客単価落ち続けていくはずがないんです。」
「それは、毎年、毎回宴会に使える金額が減少していると言うことではないのですか。」
「それよりも、金額に見合った宴会ではなくなってきていると言うことなんです。お客様は5,000円の料理というとどこそこのホテルの5,000円の料理と比較しているわけではないんです。街場の5,000円の料理と比較しているんですよ。ホテルだから高くて当たり前なんて、考えるおめでたいお客様は減っているんですよ。それなりの価値観が必要なんです。こんな世の中だからこそ、お客様の見る目は厳しいんです。」
つづく