コンシェルジュノート

2017/06/14 再建屋 道元

第86話 『旅だち』

 

(株)セントラルホテルチェーンの売却が決まった。以前より買収を持ちかけていた佐橋社長の会社ではなく、隣県でビジネスホテルチェーンを展開している会社である。独自のマーケティングシステムを保有しており、稼働率が通年高いためこの地方では有名な会社であった。また、財務状況も非常に良く、譲渡先としては申し分なかった。

道元は、この会社の社長の高本とは旧知の仲であった。実は、(株)セントラルホテルチェーンにターンアラウンドのため参画する際に、この高本を訪ねてこの地方の特徴やホテル事情を尋ねていたのだった。それから継続的にアドバイスをお願いしたり、逆にアドバイスしたりしていたのだった。メインバンクのチェリー銀行から譲渡先の探索をお願いされた際に真っ先に道元の頭に浮かんだのは高本であったことは言うまでも無い。

但し、(株)セントラルホテルチェーンを売却することがスタッフにとって一番良いことなのかどうか、道元は確信が持てないでいた。そんな想いも含めて売却について高本に相談した。

「何も心配しなくてよいですよ。セントラルホテルチェーンのスタッフには優秀な方が多いと聞いていますし、マネジメントシステムもしっかりしている。私にお任せ下さい。もっと、働きやすい職場にしますから。彼らを私に預けて下さい。」

道元の心が決まった瞬間だった。

 

「道元副社長。今までありがとうございました。おかげさまで、以前より誇りを持って働くことが出来ています。また、数字も安定的に伸びてますし、それが我々の賞与の評価にもつながっています。非常に良いサイクルに入ったなと。」

千島支配人は、道元が当社に来た頃を思い出していた。旗艦店を任され、それに応えようと頑張ってきた。それなりに業績も上向きにした自負もあった。ビジネスホテルのマネジメントのすべてを分かっていたつもりでもあった。しかし、道元と付き合う内に自信のマネジメントが片手落ちだったことに気づかされた。

「表面に現れないお客様の奥底にある気持ちや感情を見るようにしてみたらどうだろう」

道元の優しい口ぶりだが、それまでの千島のやってきたことを一切否定してしまう厳しさを感じた。当時は確かに戸惑った。だが、その真意に気づくようになってくると、河南マネージャーを先頭にスタッフの気持ちも感じられるようになってきた。そうすると、組織が前向きになってきた。今は、その結果だ。

 

道元は夜の年にきらめくネオンや看板を背にしてホテルを旅たった。

 

つづく