コンシェルジュノート

2014/01/15 コンサルタントコラム

第四十九話「ファンドの企みと和典」

 実はこのホテルの再生には、ある民間ファンドが絡んでいた。現在のメインバンクは以前のメインバンクから債権を引き継ぎ、ある民間ファンド会社が出資と資金を投入して一部改修などを行っていた。このファンドが100%出資しているため、実質的な経営の実権を握っていた。一方、このファンドはメインバンクが保有している債権についても、将来性も鑑みて早期に買い取りたいという意向を持っていたのだった。つまり、資本も債権も全て保有して完全にファンドの意のままに操って、しかるべき時期に売却することを目論んでいたのだった。

 このファンド会社は、現在売上向上のチームのリーダーであり、営業担当者であるオーナー家御曹司の佐郷和典に目を付けていた。メインバンクの意向で送り込まれた道元を排除して、和典に社長に就任してもらいたいと考えていた。ターンアラウンドマネージャーとして実績のある道元では、ファンドの意向に沿った経営をしてくれそうに無い。むしろ、何も分かっていない和典の方が使いやすいと踏んでいたのだった。そして、和典は、このファンドの甘い誘惑にすっかり囚われていた。

 「父親の無念は、俺が何とかして晴らしてやる。」

 そんな隠れた気概のかけらを持っていたのが、逆にファンドから見た時にうまく利用される原因となっていた。この事は和典が知る由も無かった。

 

 ホテルの再生においては、関わってくるプレイヤーを良く吟味しなければならない。あわよくば自身だけ儲けようとする輩が入っていることがままあるためである。このホテルも実はそうであったのだ。

 そして、道元はこの事を知っていた。このファンド会社とメインバンクとのやりとりにおいてこのファンドが考えていることを見抜いていた。最近和典がプロジェクトチームの活動が疎かになっており、営業の業務自体も浮き足立っている理由も、道元には分かっていた。

 

 「佐郷さん。最近プロジェクトチームの活動はいかがですか。何か活動に当たって難しいことはありませんか。」

 道元はいつものように、和典に話しかけた。

 「いえ、大丈夫です。」

 「そうですか。私から見ていると以前に比べてちょっと熱意が不足していると感じましたので。何かあったのかと思いました。」

 「大変申し訳ありません。以降気をつけます。それでは、少し出てきます。お客様に呼ばれていますので。」

 和典は、逃げるようにフロントバックオフィスから出て行った。

 

つづく