コンシェルジュノート

2016/02/08 コンサルタントコラム

ホテル旅館における業務効率化の”カンどころ” 第1回: 業務効率化の、思わぬ”落とし穴”

昨年10月、「第1回 旅館ホテル生産性向上協議会」が日本旅館協会の主催で開催
されたことは、ご承知の方も多いことと思います。
宿泊業が抱える課題に対し、官民一体で取り組みを進めていこうとするもので、
現在、モデルとなる8施設での生産性向上に向けた調査とコンサルティングが進
められています。

ホテル旅館に限らず、サービス業は全体として、人手不足の傾向が顕著になりつ
つあります。そのことを、身をもって実感しておられる経営者様も多いのではな
いでしょうか。
弊社のクライアント様でも、退職者の補充がきかず、十分とは言えない陣容で、
これまでどおりのサービス提供を余儀なくされているケースをずいぶんと拝見し
ます。無理がたたって体調を崩すスタッフが相次いだり、そのまま退職に至って
しまったりということも少なくありません。

このように、ホテル旅館にとって業務の効率化は喫緊の課題のはず。
ですが、改めて今、サービス業の生産性向上に官民での取組みが始まることに象
徴されるように、多くのホテル旅館が具体的に何から始めればよいか、迷ってい
らっしゃるようにお見受けします。

そこで、今回から3回にわたって、サービス業、特にホテル旅館において業務効
率化を進める上でのポイントをお伝えしていくこととします。

さて、それでは本題に入りましょう。

ある日、とある旅館でのこと。なにやら会議が行われているようです。
こんな風景に、見覚えはないでしょうか。


社長

「ここのところ、人手不足で忙しいという声をよく聞くんだが…。私も、
少し業務の効率化を図った方がいいと思っている。アイデアを聞かせてもらえな
いだろうか?」

総務

「年末は年賀状の宛名書きで、忙しいところにずいぶん時間をとられてしま
いました。ああいう作業こそ、効率化が必要ではないでしょうか?」(A1)

女将

「そんなことより、昨日の鶴の間のお客様、私がご挨拶に上がったら、頼ん
だお酒が来ないって怒られてしまったわよ。効率化もいいけど、そもそもやるべ
きことができていないでしょう。いったいどうなってるの」(A2)

調理長
(…昨日は、アレルギー対応でトラブルになったお客様があって、そっ
ちが大騒ぎだったのは、女将の耳には入っていないのかな。自分もお客様対応で
ずいぶん時間を取られたんだが…。ここ数ヶ月で何件か起こっているし、対策
が必要ではないかな)(A2)

支配人
「とりあえず、ヌケモレが起きないように、宴会場のドリンク注文はフロ
ントにチェックリストを置いておきます。ドリンクを出した人が責任をもって記
入してください」(B1)

仲居
「チェックリストと言えば、先月の会議で、お客様からのご依頼の申し送り
も、終わったらノートにつけることにしましたけど、結局、誰も記入しなくて、
そのままになってますよ? そもそも、依頼を受けた人がノートに書いてくれな
いので、チェックのしようもないんです」(B1)

フロント
「電話予約の確認票も、同じようなことになってますよね…。だいた
い、フロントの中は書類がたくさんあって、ノートがどこにあるかもわからない
んですよ。…それでも、これまで誰も何も言わなかったしなぁ」(B2)

仲居
「ウチは他の旅館と違ってプランの数が多いし、団体のお客様は個別のご要
望もありますよね。だから申し送りが多いんです。こんな状況だと、チェックリ
ストとかマニュアルとかは馴染まないんじゃありませんか?」(C1)

女将
「年配のお客様も多いから、マニュアルっぽい接客は好まれないわよねえ。
新人の子に、それだけできればいい、と思われても困るし」<>(C2)

支配人
「結局、各自が意識を高めるしかないですね。みなさん、これからは気を
つけるようにしてください」

社長
(…A旅館は、ホテルシステムを入れ替えて、ずいぶんと効率化されたと聞
いている。いま出たようなことも、システムでなら解決できるはずだ。よし、業
者に連絡を取ってみよう)(A3)(C3)


やや極端に脚色しましたが、業務効率化がうまくいかない典型的なパターンを想
定してみました。

うまくいかない理由はどこにあるのか。大きく、次の3点に集約できるでしょう。


【A: 全体が見えていない】

年賀状の宛名書きは、たしかに非効率的な作業かもしれませんが、1年に1度し
か発生しません。しかも、総務以外の人には関係がありません。(A1)

女将は、たまたま自分が言われたことだけを取り上げて問題にしていますが、
どうやら、もっと重大なクレームが頻発していたようです。(A2)

社長は、そもそも人手不足に陥っている原因もわかっていないまま、システム
を導入しさえすれば、何かが変わると思っています。(A3)

どれも、「人手不足」になっている理由や、そもそもの旅館の業務の全体像、
課題の大きさや優先順位について、お互いが共通の認識を持てていません。
結果として議論はかみ合わず、会議そのものが、非効率を再生産する場になっ
てしまうのです。


【B: 場当たり的な対応】

Aと似ていますが、ミスが発生したら、対策として「とりあえず事後のチェッ
ク」を導入するケースが多いのではないでしょうか。
これは、ミスの防止に効果がないばかりか、むしろ業務を増やす要因になり、
おすすめできません。(B1)

また、(チェック業務に限らず)会議で決められたことが継続して実施されれば
よいのですが、いつのまにか放置されている、というのもよく見かけるパター
ンです。
決めただけで何かをした”つもり”になり、実行されていないことを誰もとがめ
ません。なぜ実行できないのか、改善の余地はないのかについても、議論され
ることはありません。(B2)

そして、また別のトラブルが発生し、とりあえずの対策が決められ、また誰に
も守られず…。

最終的に、何が決まりなのか、正しい業務の進め方はどういうものなのかすら
も、怪しくなってきてしまいます。
覚えるべきことがわからず、せっかく採用した新人は、いつまでたっても戦力
になりません。仕事のおもしろさもわからないので、すぐに辞めてしまいます。


【C: 思い込み・思考停止】

「ウチは他と違って特殊だから」

これもよく耳にするフレーズです。
私は「思考停止フレーズ」と呼んでいます。(C1)

ここでは「ウチはプランが多い」と言っていますが、もっと多くのプランを扱
っている旅館は存在するでしょう。
団体のお客様も、昔に比べれば減少しているのでは?
個人のお客様が多い旅館なら、「ウチは個人客が多いから」と置き換えられそ
うですね。

そもそも、イレギュラーな対応が多い業務ほど、効率化の必要性は高いのです。

また旅館様の場合、マニュアルを定めることに生理的とも言える拒否反応を示
されることが、ままあります。(C2)

何も、すべてをマニュアル通りにしろと言っているわけではありません。
すべての業務が、本当にマニュアルに適さないのか、立ち止まって考えていた
だきたいのです。
(このあたりのことは、第3回で詳しくお伝えする予定です。)

システムもそうです。
システムさえ導入すれば、何かが変わると思っておられる方は多いのですが、
そんなうまい話はありません。(C3)


はっきりとした理由は分からないが、全体的に人手不足の状況が続いている。
対策を取っているつもりだが、改善されている感じがしない。

そういう場合は、上記A、B、Cのいずれか、または全てが起こっているはずです。
逆を言えば、この3つを克服することが、業務効率化で成果を上げるカギとなり
ます。

そのためには、業務効率化に取りかかる「前に」すべきことがあります。

次回は、そのお話です。