第二四話「桜の季節」
「ようやく、合意が得られたか。」 W県中小企業再生協議会の牧副統括責任者からの電話を切った後、坂本は椅子に深く腰掛けて大きく息を吐いた。坂本の脳裏には、同じように深く腰掛けて窓の外を眺めていた昨年の暑苦しい夏が甦ってき […]
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「ようやく、合意が得られたか。」 W県中小企業再生協議会の牧副統括責任者からの電話を切った後、坂本は椅子に深く腰掛けて大きく息を吐いた。坂本の脳裏には、同じように深く腰掛けて窓の外を眺めていた昨年の暑苦しい夏が甦ってき […]
記録的な猛暑を過ぎ、珍しく大雪も何度か降り積もる冬もようやく過ぎようとしていた。三寒四温の気配が感じられる季節となっていた。 「経営者責任を明確にするため現経営者は退任、新たにターンアラウンドマネージャ […]
「息子さんは戻っていらっしゃらないのですか。」 平山統括責任者は手元の資料をめくりながら、坂本社長に尋ねた。 「今勤めている国内資本の大手シティホテルの仕事が面白いらしくて。特に現職の営業課長の仕事にやりがいを持っ […]
「私達の自宅はどうなるのでしょうか。」 社長の妻である伊織は、遠慮がちに話した。いつもの伊織らしくなく、どこかしら落ち着かない様子だった。この息苦しい会議室のせいだけではないようであった。表情豊かに笑顔をお客様に振り […]
坂本社長と妻の坂本伊織取締役は、W県中小企業再生支援協議会の会議室にいた。会議室は質素で何の飾り気もなく、周辺の音も聞こえない息苦しい空間だった。しかし、坂本はなぜかしらこの会議室が気に入っていた。世間から乖離したこの […]
高槻部長は押し黙って、専門家の話を聞いていた。高槻部長にとっては当然にすんなり受け入れられる内容の話ではなかった。 「・・・ですから、W国際グランドホテルの営業は、旧態依然とした営業であり、かねてからの旧知の仲間への訪問 […]
「先生に何が分かるというのですか。私はこのW国際グランドホテルの営業を始める前、まだ弊社が別の場所でビジネスホテルを運営していた頃からずっと居るの。35年前に主人と結婚してから、ずっと社長を支えてきたんです。二人の子供を […]
「先生。私には少し納得がいかないところがあるんですが。」 坂本社長は、事業担当の専門家に対して遠慮気味に話し始めた。 1週間ほど前に、2回目のバンクミーティングが開催されていた。その会議において事業と財務の専門家からデュ […]
財務チームの公認会計士によるデューデリジェンスは、比較的スムーズに進んでいるようであった。不動産鑑定士からは事業用と非事業用全ての不動産の鑑定評価も出されていた。どの不動産にしても時価評価はかなり下がっており、時価評価に […]
専門家は、和食料理長である中川へのインタビューを行っていた。 「原価管理はどのようにされていますか。」 「うちのホテルには和洋中それぞれに使用するレシピ–のフォームがあって、それに記入することでプリコスティン […]